辞書フェチ Ⅰ〔国語・漢和・古語〕

小学3年になったとき、1~2年の担任だった先生から、〔なぜか個人的に〕国語辞典と漢和辞典をセットで贈られた。旺文社「標準国語辞典」「標準漢和辞典」…子供に媚びない、普通の辞書だった。家には親の実用事典〔簡単な意味や漢字表記が調べられる字引兼事典〕があったが、いわゆる辞書、しかも自分専用を手にするのはこれが初めてだった。

最初に手にした辞書が「まとも」だったおかげで、子供に媚びた絵入り/カラー印刷に毒されずに済んだ。この点、送り主の先生には感謝しきれない。だが逆に、見出しの見方や記号の意味など、旺文社の辞書仕様に慣らされ、「辞書とはこういうもの」とインプリンティングされてしまった気はする。

つめ

たとえば、多くの辞書には、小口に「つめ」と呼ばれる見出しがついている。旺文社の辞書はさらにその横に「あ」「か」「さ」と印字してあり、は行・ま行あたりでも迷わず素早く引けた。のちのち英語の辞書でも、つめがなかったり、あってもABC…の印字がなければ、自分で書き込むのが習慣になった。

中学で収録語彙に不足を感じるようになり、慣れていたので同じ旺文社の「国語辞典」に切り替えた。だが漢和辞典の方は、正しい部首が分からないと漢字が探しだせない点に不便を感じていた。そこで部首引きの検索性が卓越だった三省堂「携帯新漢和中辞典」に変えた。この1冊は今でもメイン辞書であり、鮮やかだった朱色の箱は今やレンガ色である。

その後、書棚に並んだ国語辞典類〔購入順不同〕

  • 講談社学術文庫「国語辞典」
    • 文庫装丁は脆弱なので、公共図書館の収蔵図書さながらに、厚手の透明フィルムでがっちりと補強している。最も長くメイン辞書の座にあった。なぜか後の改訂版がもう一冊、書棚にある。
  • 「新訂大言海」冨山房〔全1冊〕
    • 大学生協の催した古書市で衝動買い…旧仮名遣いで本文は片仮名表記、活字も古く、日常の字引としては役立たなかったが、ぱらぱらめくって目についた単語の解説を普通の書籍のように読む、という楽しみ方があった。あらためて開いてみると、B5版の大型辞書にもかかわらず、5pt〔1.8mm〕ほどの小さな文字でびっしりと解説が書かれている。振り仮名はさらに小さい。掲載4万語に対して本編2200ページ超え…その情報量たるやすさまじい。
  • 「小学館国語大辞典」
    • 「日本国語大辞典(全20巻)の精華を全1巻に結集」という能書きに、つい、ふらふらと引き寄せられた。巻数〔20巻⇒1巻〕に比して収録語数〔50万⇒25万〕が多く、膨大な解説や情報がごっそりネグられているのは必至だった。したがって、読める辞書にはなっておらず、卓上版辞書に言葉が見当たらない時のバックアップである。
  • 「講談社日本語大辞典」
    • 会社の福利厚生で社員割引きされていたのを購入。「日本語+百科」を謳っており、オールカラーの図写真入りである。監修に著名な国語学者がずらり並んでおり、辞書として手を抜いていないことがうかがわれる。だが、カラー印刷のためにしっかりした紙を使っており、それが辞書としてマメに引こうとするときの扱いづらさを招いている。
  • 「大漢語林」〔全1冊〕+「語彙総覧」大修館
    • 購入は「講談社日本語大辞典」と同じタイミング、または若干前後する程度だったと思う。収録漢字が極端に多いという訳ではないが〔1万4千字〕、これで見つからなければ諦めがつく〔何の…?〕。四角号碼という特別な検字法で引くための別冊総覧は、一般的な漢和辞典の使い方をする限り、なくても困らない。そもそも別冊総覧があることを知らなかった。だが後日、わずか180円〔1ドル50セント程度〕の古書を見つけ、思わず手を出してしまった。

右端の相対的に薄いのが総覧

  •  「角川必携国語辞典」
    • 講談社の文庫版を自宅で使っていたので、会社置き用として購入。今から考えると、大きさから言っても逆でしかるべきだったのでは?、と思う。さらに、なぜその時点で旺文社版が書棚から消えていたのか、定かな記憶がない。誰かに譲ったような気もする。購入当初はかなり活用したが、インターネット時代に移行するにつれて引く機会が減った。
  • 「角川漢和中辞典」
    • 古本屋で安く手に入れた。三省堂「携帯新漢和~」より二回りほど大きいが収録漢字数はむしろ少なかった。特に二冊を意図的に使い分けした積りはないが、角川の方が書棚のちょうど手の届く位置にあった、たったそれだけの理由で使用頻度は高かった。蔵書の約半分を断捨離した際、三省堂を残して角川を手放した。やはり部首引きする際の便利さは圧倒的だったからだ。
  • 「角川新版古語辞典」
    • 高校で古語辞典を使うようになるまで、どうやって古語を調べていたのか記憶にない。案外、学習雑誌付録の単語帳あたりで済ませていた可能性もある。10代~20代の一時期、詩/小説/散文を旧仮名づかいで書いていた。旧仮名使いの確認は国語辞典でできたし、主な古語も国語辞典に載っていた。なので受験期はともかく、日常での需要は、十分な語数を収録する国語辞典で賄えてしまう。この古語辞典は4万5千語収録しているが、拾い読みすると多くの語が現代語と被っている。あえて古語辞典で引く必然性が低い。事実、自分が唯一保有するこの白い古語辞典は、かなりきれいだ。
  • 「字引」トーレン社ミニブックス刊行会
    •  6cmx9cmほどの小さな字引。辞書ではないし書棚にならんだ事もないが、鞄に入れ放しで常に持ち歩いていた。ポリシーが明確で、漢字のど忘れ時に大活躍した。2冊持っていたが、どこへ行ったのだろう…。いま、プレミアム価格がすごいことになっている。
  • 「清水国語辞典」、永岡社「国語小辞典」
    • いずれも字引ではなく小型の国語辞典である。小型ゆえ、どうしても収録語数が限られるので、未知の言葉を調べるのには向かない。かといって、読み込めるほどの解説でない。サイズにつられ、はずみで手に入れたものの、結局、どちらもお蔵入りになっている。
  • その他の小型辞典〔辞書・字引・用事用語 ほか〕
    • この類はのべ数十冊に登る。面白がって買うものの、さして実用性はないのですぐに扱いがぞんざいになり、そのうちどこかへ行ってしまう…の繰り返しである。

ここまでで、まだ、マニアでもコレクターでもなく「辞書フェチ」と自称する理由について触れていない。そのためには、まず英語辞書についても語っておく必要があるからだ。だが英語辞書を語るのも、相応に長尺になると予想されるので、別の場を設けることにする。

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