プロジェクトマネジメントと仮説検証

プロジェクトマネジメントのもうひとつの存在意義は、如何に計画の変更管理をしていくかにある。考えようによれば、プロジェクト計画とは「このようにやればできるだろう」という仮説であり、計画の変更管理プロセスは、その仮説検証プロセスと見ることができる。

仮説検証プロセスとは何か

仮説検証プロセスは戦略経営のコアとなるプロセスのひとつであるが、実際にはそんな大げさな話ではない。単に

  1. 状況の観察・分析
  2. 仮説の設定
  3. 仮説の実行・情報収集・修正

の3つのプロセスであり、われわれがビジネスの上では自然にとっているプロセスである。ただし、うまくできているかどうかがビジネスの成果に直結しているように、人によって上手下手がある。

まず、状況をよく観察する。何を観察するかは、何に対して仮説検証型のプロセスを適用するかによって変わってくるが、プロジェクトであれば、プロジェクトの目的をよく分析し、そのプロジェクトの制約条件や仮定条件(これは仮説ではない)としてどのようなものがあり、それがプロジェクトの進行とともにどのように変わっていくかを分析することである。

次に「仮説」を設定する。ここで、「仮説」とは何かをよく理解しておく必要がある。仮説とはそれを検証したい仮の結論、あるいは仮の解決策のことだ。これについては後でもう一度、説明する。

次に、実際にその仮説を実行する。

設定された仮説が正しいかどうかを検証するには、仮説を設定した時点以上の情報が必要になる。そのためには、実際に行動してみて、その結果を分析して仮説が正しいかどうかを判断するための情報を得るしかない。つまり、ある仕事が1ヶ月で終わるという仮説を立て、計画を作ったとする。その仮説が正しいかどうかは、実際にその計画を実行してみるしかない。

これは「結果論」とは違うので注意しておく必要がある。

たとえば、宇宙ステーションのある部分の組み立て作業をするとしよう。当然、過去に誰もやったことはない。そこで、たとえば、地上での実績をベースにしてどのくらいの時間がかかるかを想定し、計画する。ところが、その作業の10%も実施すれば、仮説が正しいかどうかはある程度検証できる。

そこでもし、仮説が不適切であれば、修正する。つまり、計画を変更する。これは作業途中のタイミングだ。仮説の修正はこのような形で行われることになる。

プロジェクトマネジメントにおける仮説とは

プロジェクトマネジメントでいえば、ガントチャートや予算表が仮説というわけではない。プロジェクト計画は、一見、積み上げてあるようだが、よく考えてみると、終了すべき時期、成果物、費用、人などを仮に決めてみてそれから逆算したものだ。これは制約条件であることが多い。プロジェクトにおいては、まず、目的(いつ、どんな成果物を、どのくらいの費用で、どういうメンバーで得たいか)ありきだからだ。

しかし、では、プロジェクトオーナーは、目的をまったく自分たちの都合だけで決めているのだろうか。そうではない。そのような要求であれば、それに対して間違いなくコンストラクターが協議をして合意できる線を出そうとする。この合意できる線というのが、仮説なのである。

仮説思考とするときに使う思考方法

仮説思考をするときに使われる思考方法としてさまざまな人が上げているのは、

  • ゼロベース思考
  • フレームワーク思考
  • オプション思考

の3つである。

ゼロベース思考は(積み上げではなく)前提なしに、終了すべき時期、成果物、費用、人などを白紙のところから設定し、それを計画化する考え方である。プロジェクトがうまくいかない原因のひとつは、計画を積み上げで考えているところにある。積み上げるということは、誤差も積み上げるということである。

次のフレームワーク思考は、たとえば、ポートフォリオのようなフレームワークに当てはめていくことにより、もれなく、ダブりなくチャックするという考え方である。これは、仮説を設定するための現状分析や、仮説の検証の際には不可欠だ。プロジェクトマネジメントでいえば、進捗状況のEVMの発想はこれに近い。

最後のオプション思考とは、常にオプション(選択肢)を持ちながらものごとを考えていく方法で、仮説思考では必需品である。プロジェクトマネジメントでも、リスク計画を絡めた計画部分はまさにオプション思考を行っている部分である。

このように仮説思考は現実問題として、プロジェクトマネジメントの中にもしかりと入り込んでいるわけだ。

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