医療医薬における情報技術のトレンド〔2015〕

データーの取得・蓄積・利用における大きな変化

IT(情報技術)はいま、劇的なスピードで医薬・医療の世界に浸透し、医薬品の開発から現場医療までを加速度的に変えつつあります。誰もがすぐに思い付くのは、アップルウォッチに代表されるウェアラプル・デバイスの普及でしょう更に、 IoT (モノのインターネット化)が進み、多くの医療機器がインターネットに接続されはじめています。そして、 BAN(ボディーエリアネットワーク)によって、人体全体を覆うように配置されたテ’パイスやセンサーからも、次々とデーターが得られるようになりつつあります。生体情報を獲得する方法が、いま、 ITによってますます簡易かつ日常的に変わっているのです。

これらのデーターは、無線ネットワークを通じて、インターネット上のクラウドストレージに蓄積されます。患者、健常者の日常的な生体データー、治験データー、安針生データー、処方データーなどもクラウドに蓄積され、ビッグデーター化しているのが現状です。

ひと昔前まで(といってもわずか1~2 年前まで)は、クラウドに医薬医療データーを置くことなど「ありえない」というのが常識でした。しかし、極めて短期間のうちに規制やガイドラインが整えられ、暗号化技術、認証技術などセキュリティ対策が施されるやいなや、加速度的に普及し始めています。いまやFDA(米国食品医薬品局)でもクラウドを利用しています。

クラウド以前から、アカデミーや政府はパブリックなデータベースを模索してきました厚生労働省主導による安全性データベース(PMDAのMIHARI Project)は、その代表といえます。クラウドにビッグデーターが置かれれば、当局、製薬メーカー、医療機関などが組織を超えて医療データーを共有できるようになります。現行規制の枠内ではまだ難しい部分はあるものの、 リスクマネジメントや安全性管理のためには、創薬から育薬までのライフサイクル全体をスコープにとらえたデータ一連携、データー活用が不可欠です。したがって、こうした動きはますます加速する一方であると予想されます。

集まったデーターの活用では、人工知能を用いた加工処理や解析が注目されます。例えば、複雑で大量のデーターから効率よく必要な情報を探索する技術、 動画・画像・音声・テキストなどの非数値データーを数値と同様に取り扱う技術、 一連のデータ一群を解析して知見や解釈などを導き出すアナリティクスといわれる技術、データーが持つ各要素聞の関係や関連を推論する技術などです。さまざまな技術や数学モデルが研究され、次々と実用化されつつあります。

ビッグデーターから意味ある情報を引き出そうとするなら、人工知能は不可欠です。ウェアラブル⇒ビッグデーター⇒人工知能は、きわめて密接に結び付いた技術連鎖なのです。

医薬・医療におけるパラダイムシフト

医薬・医療の現場ではどういった変化が起きるでしょうか。電子カルテによって患者情報を共有したりペーパーレスをはかったりといった、特定の「場」における変化ではとうてい済みません。

かつて電話交換手がいなくなったように、都市圏の主要駅から改札員がいなくなったように、ある領域の仕事がごっそりなくなったり、現場医療のやり方が機械によって根本的に変わるような変革がおこります。私は早ければ3年でその時期が来ると考えています。

かつて電話交換手がいなくなったように、都市圏の主要駅から改札員がいなくなったように、ある領域の仕事がごっそりなくなったり、現場医療のやり方が機械によって根本的に変わるような変革がおこります。

まず、治療や安全性における様々な対応が自動化され、期間が短縮が図られるでしょう。カバー範囲と量が飛躍的に拡大した情報は、研究者の経験や勘に頼ったトライ&エラーではなく、数学モデルを応用した人工知能で一気に解析されるようになります。そうした中から、未病(病気が発症する前)の状態で疾病発症の兆候をとらえたり、今まで見過ごされていた創薬機会が見いだされたりするでしょう。アンメットメディカルニーズに対するこれまでとは全く違うアプローチからのブレークスルーが導き出されるかもしれません。予防医療や先制医療における「治療」から「予防」へのシフトが加速することでしょう。


〔社名義で職務著作した稿につき、掲載誌名等は控える〕

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