企業情報ポータルを導入する際の留意点

業務が様々なものを受け渡しながら流れて行くと、それらは常に情報に置き換えられます。人が動けば、作業指示や命令という情報が発生します。物や商品が動けば、入出庫や発送の情報が生まれます。お金が動けば、それは伝票や領収書・請求書などの書類に記録されます。そういった情報が、価値を生み出したり、価値そのものだったりするわけです。これらの情報をきちんと押さえて、コンピューター・データーに置き換えるタイミングを把握・設定することがビジネスシナリを作成する上でのポイントになります。

企業情報ポータル(以下「EIP」)は、データーの一貫した流れを作り出して、業務の効率を向上させる手段ですが、ビジネスシナリオを作成する段階では、データーの流れだけではなく、人・物・金・情報の全てについて流れを押さえておく必要があるわけです。

こうして、業務に必要な情報を設定するとき、特に、担当者が業務遂行上、欠かせない情報や、関連して把握しておくべき情報があれば、それを「マスト情報」として区別しておきます。業務データーとして利用する際はもちろんですが、プッシュ技術によって利用者のデスクトップに必要な情報が表示できれば、EIPの効果はいっそう向上するでしょう。

社員の知恵や知識、社外から入手する非定型な情報(文書ファイルなど)は、必ずしもビジネスシナリオには乗りません。EIPで社内情報を網羅するできません。そのような情報をうまくEIPに取り込む場合は、ナレッジマネジメントの観点から情報を整理・共有すると良いでしょう。

コンテンツ=情報が大切

EIPは、社内外に散らばる情報を有効活用するための基盤を提供します。しかしそれは手段であって、目的ではありません。EIPで情報共有をはかる上で欠かせないのは、どのような社員のために、どのようなコンテンツを提供するかというコンセプトです。データウェアハウス、ナレッジマネージメント、レガシーシステムのデータベース、グループウエアなどが既にに導入されている企業は多いと思いますが、どのようなソリューションであれ、コンテンツ(=情報)が重要であるという点はなんら変わりはありません。

EIPのプッシュ技術を使えば、利用者に特にアクションを起こさせなくても、タイムリーな情報を届けられます。一見、便利な機能ですが、実はそのままではあまり価値はありません。必要な人に必要な情報が伝わらなければ、単なる情報の垂れ流しになってしまうからです。役員向けポータルで慶弔に関する情報を提供したり、全社員に知らせたい情報を”What’s New”に掲載する場合、また、販売データをマイニングした結果を「今日の売れ筋情報」として営業担当者に提供する場合などは、だれが何のために、どんな情報、どんなデータが必要かが明確です。このようにあ、利用者と必要データーとの関連を体系的に整理したうえで、個々の利用者が本当に必要とする情報を提供することが重要です。

いまある情報から提供してゆく

ある情報が有益かどうかは、個々の業務における情報の位置付けや利用法が判断基準となります。けれどもその基準そのものや、基準作りのための仕組み・制度などは、あまり整備されていない企業が大半です。特に、日常業務を通じて作成・入手される知識やノウハウなどのナレッジ情報については、ほとんど手がうたれていないと思います。そのため、会社として保有すべき情報の多くが、個人に帰属しがちです。日常よく利用する情報ほど、個人持ちとなっています。誰のどのような基準にもとづいて、情報を共通の資産と認めるか、どのように分類され保存されるか…といった課題は、あまり検討されることがないからです。

EIPでナレッジ情報を共有し、利活用する基盤を確立しようとする場合にはまず、情報の共有レベルを見直して、自社の「価値ある情報」はどのようなものかを検討しておきましょう。始めは、電子ドキュメントの収集と分類から着手するほうが良いと思います。理想的な情報体系を描いて、いきなり実装しようとすれば、不足する情報や新たに手に入れなければならない情報への対処・対応ばかりに時間を奪われがちだからです。ミニマムの情報提供からスタートして、EIPの効果を確かめながら次第に拡張してゆくほうが現実的です。

ですからまず、「いま、現実にある情報」は何かを棚卸した上で、会社・部門・所属組織・チームなどにとって重要な知識を定義し、最低限必要な加工で公開するというアプローチのほうが、素早く立ち上げられます。また、導入効果も早くから得られます。

管理・把握されていないというだけで、既存の情報に価値がないと決め付けるのは早計です。ローカルなパソコンに個人管理されている情報や、部門や拠点に分散している情報などの中には、他の社員にとって有益なものが沢山含まれています。今まではただ、価値判断基準があいまいだったために、いわば「在野」の情報をすくい上げたり、共有するといった管理の仕組みにとりこむ機会がなかっただけだといえます。

EIPは、社内のどこかにある情報、あるいは社外のどこかにある情報を差別なく、利用者のデスクトップに届けられる仕組みです。理想論で情報体系を描き、不足する情報の収集に奔走するよりも、社内外に眠っている有益な情報をまず、EIPを使いながら共有・利活用の遡上にのせることを考えてみてください。そして、価値ある情報がだんだん見えてきたら、利用者にとって「見る」ことが必須となるよう、情報提供の場を作ります。EIPによって情報共有・公開の基盤を作ってから、プッシュ型の自動配信機能を付加してゆくといったアプローチを取るのです。

ただし、利用者に必要そうな情報だからといって、むやみにプッシュしてもいけません。提供者する側が勝手に必要だろうと思う情報が、本当に利用者が欲しているとは限らないからです。必ず、情報をきちんと整理・分類した上で、マスト情報を選定してください。そうでないと、たとえ業務関連の情報といえども、迷惑メールと同じように、利用者がうんざりして無視し始めるといった結果を招いてしまう恐れがあるからです。

ある程度、情報流通が一般化し、取得の流れに勢いが付いてくると、利用者は自然に拡大してゆきます。そうなれば、自然にネットワーク型の業務運営が実現します。モチベーションを上げるための評価制度などを整備して、情報入力を促す仕組みを作れば、業務が手作業ベースから電子処理ベースに変革されやすくなります。

このように、EIPで情報公開をする際には、情報を精査して、共有すべき/共有できる情報を峻別する必要があります。社内を行き交いする情報を分析して、必要な情報やデータがどこにあるかを整理しておきましょう。

情報のライフサイクル

日常よく利用される情報の大半は、直近のものです。特に、EIPのコンテンツとして掲載され、利用される情報の多くは、最新のものです。しかしデーターベースや共有フォルダーの現状を見ると、保存されている情報の大半は、あまり利用されない古い情報です。多くの場合、情報の蓄積に一生懸命になるあまり、古い情報の廃棄には注意が回りません。

情報は生ものですから、時間の経過とともにその存在価値を変えます。ですから、情報の発生(作成)時点でライフサイクルを想定しておく必要があります。ライフサイクルとは、「発生-処理-格納-変容-利用-廃棄」といった周期です。ニュース情報のように、新しい数日間に価値が最大でその後急速に下がるもの、顧客情報や取引先情報のように、取引が続いている間の価値は一定で、あまり変動しないもの、また、法律によって保有期間等が定められている一部の情報のように、情報価値とは無関係に管理方法が一定のものなど、情報はその性質によって、ライフサイクルが異なります。このような情報のライフサイクルをコントロールすれば、ホットな情報はすばやく取り入れ、古い情報を破棄するといった、情報の新陳代謝を効果的におこなう仕組みが出来ます。

たとえば、情報にはあらかじめ重要度や有用性を考慮した管理属性を付与し、EIPのコンテンツに掲載すべく共有フォルダやデーターベースに登録する時点で、保有期間や廃棄のタイミングが分かるようにします。あわせて履歴管理を行ない、最新情報を把握しながら、一定のタイミングで情報の棚卸しを行ないます。

このようにして、必要情報を適時更新し、使われない古い情報は適切に廃棄する仕組みを作っておけば、常に新鮮で、企業にとっての情報価値が高いコンテンツを維持できます。

情報発信とナレッジ・マネジメント

人が作成したり入手した情報を利活用しやすい風土を醸成するには、まず、情報を全社的に共有するインフラとしてのネットワークや、特別なトレーニングがなくとも手間をかけずに登録・更新・参照できる仕組みが必要になります。情報の場所や格納形式を気にしなくて良いインデックスの作成、データーベースや情報管理体系の整備、基本的な知識情報・文書等の電子化と電子的な流通、IT環境整備などが必要条件です。

しかし、仕組みだけで情報発信や情報流通が実現するわけではありません。情報を提供する側には一般的に余分な負荷がかかります。ボランディア的に有益な情報を発信する人が仮にいたとしても、正規な職務定義と努力なくては継続できません。社員の仕事の仕方・考え方、業務プロセス、情報に対する認識、風土・文化が緊密に関係しています。業務改革や組識・文化の変革のための投資は、IT投資のおよそ4倍かかるといわれており、根気のいる活動になります。

そのための体系的な仕組みのひとつが、KM(ナレッジ・マネジメント)です。KMが対象とする「ナレッジ=知」とは、「データー」や「情報」ではなく、「知識」や「知恵」のことです。KMは、このようなナレッジを全社員で利活用し、新たなナレッジを生み出すサイクルを構築・継続・発展させることです。そのためには、情報の共有や流通をうながすコミュニティのようなものが必要ですが、まさにEIPは、そのようなコミュニティを構築する仕組みとして最適です。

ナレッジは評価(ふるい落し)され、有効なものだけが蓄積されます。蓄積の際には、識別(分類と属性定義)が行なわれ、ナレッジどうしの関連付けや引き出すくするためのインデックス化が行なわれます。こうして蓄積されたナレッジは、活用局面が想定され、それを必要とする業務とのマッピングが行なわれます。

このような一連の「知」の管理は、まさに、EIPを構築するために行なわれる情報の識別とビジネスシナリオの作成に他なりません。EIPは、必要な人に必要な情報をタイムリーに提供する環境ですが、その基本コンセプトはまさに、ナレッジマネジメント(Knowledge Management)そのものだといえるでしょう。

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